引き裂かれた絆 第3話
「…ん…」
時々感じる、電気が走ったような感覚に、ゴウは目を覚ました。
(…ここは…どこだ…?)
ぼんやりする頭で、うっすらと目を開き、ゴウは辺りを見回した。
ポツン、ポツン…
どこかで水の滴る音がする。
周りはゴツゴツとした岩肌が見える。
その岩肌にろうそくが数本、立てられている。
(…洞窟…?)
ようやく意識がはっきりして来た時、ゴウは両腕に痛みを感じた。
「!!」
自分の現状を理解した時、ゴウは呆然となった。
「…なッ、何だよッ、これッ!?」
上を見上げるゴウ。
両手はそれぞれ頭上に伸ばされ、岩と鎖で繋がっている。
「!!」
そしてゴウは、足元を見た瞬間、背筋が凍り付いた。
紫色の靴。
「うわああああっっっっ!!!!」
叫ばずにはいられなかった。
自分の意志ではないのに、ゴウはビーストオンし、ゲキバイオレットになっていたのだった。
しかも、メットまできちんと装着されていたのだ。
「どっ、どうしてッ!?」
ゴウは腕を振り解こうと必死に動く。
だが腕に絡み付いた鎖は解けず、ジャラジャラと無機質な音を立てているだけだった。
「くそったれぇっ!!放せよっ!!」
足もばたつかせるが、肩幅程度に開かれたそれは地面で鎖に繋がれ、これまた解けずにいた。
その時だった。
「気がついたみたいだね、兄さん?」
コツコツと靴音が響き、奥の暗がりから青い上着を羽織った男が出てきた。
「…てめぇ…!!」
ビーストオンしたまま、ゴウはその男・鏡の中のレツを睨み付けた。
「こんな手荒な真似はしたくなかったんだけどね…」
レツはそう言うと、鎖に繋がれたままのゴウを正面から抱き締めた。
「なッ、何しやがるッ!!どけッ!!」
ゴウが何とかして鎖と、抱き付いているレツを振り解こうと懸命にもがく。
「…兄さんの匂いがする…」
ゴウの筋肉質な胸に顔を埋めるレツ。
「本当にこんな手荒な真似はしたくなかったんだよ、兄さん」
レツが潤んだ瞳でゴウを見上げる。
「くっ…!!」
本物のレツと錯覚する。
本当にそっくりで、でもどこか違っていて。
「兄さんがさぁ、ちっとも僕のことを見てくれないから。振り向いて欲しくて…」
「ふざけんなッ!!」
ゴウがそう言った時だった。
ドスッ!
「…!?」
一瞬、ゴウの呼吸が止まった。
「…か…は…ッ!!」
紫と白、黒の境界部分、ゴウの腹部にはレツの拳がしっかりとめり込んでいた。
「口の利き方には気を付けた方がいいんじゃない、ゴウ兄さん?」
そう言うとレツは、ゴウの体をそのしなやかな指で撫で始めた。
首、胸、ごつごつに割れた腹筋…。
まるでゴウの体をじっくりと観察するように。
その指がゴウの胸を通過した時、
「あッ!!」
と、ゴウが声を上ずらせた。
「あれぇ?」
レツがニヤニヤと不気味な笑みを浮かべ、ゴウを見上げる。
「兄さん。もしかして、ここが感じちゃうとか?」
そう言うとレツは、ゴウの、光沢のある紫色のスーツの、グッと盛り上がっている胸の部分を執拗に撫で始めた。
「あッ!!んあッ!!やッ、止めろぉッ!!」
「へぇぇ。兄さん、胸が感じやすいんだぁ!」
ヒャッヒャと笑うレツ。
その時だった。
「そのくらいにしておきなさい、レツ」
別の声が聞こえたかと思うと、奥の暗がりから別の男が姿を現した。
「ロン様!」
レツがロンに近寄り、跪く。
「お楽しみは後からです」
そう言うとロンは、ゴウの目の前に立ち、鼻でフンと笑った。
「…ロン、…てめぇ…ッ、何考えてやがるッ!?」
メットの奥からゴウはロンを睨み付けた。
「フフフ…。メットの奥から私を睨み付けているようですねぇ。しかし、その無様な格好では何の説得力もありませんよ?」
そう言うとロンはククク、と笑い始めた。
「ホントだぁ!兄さんのココ、半勃ちしてるよ?」
レツが立ち上がり、自身の股間を指さし言った。
「うぅわあああっっっ!!!!」
ゴウは恥ずかしさから声をあげた。
X字に束縛された、無抵抗な自分。
そんな自分の股間が、レツが仕掛けた胸への攻撃に反応してしまっていたのである。
その時だった。
バリバリバリ…ッ!!!!
強烈な電撃がゴウを絡め取った。
「うぐああああっっっっ!!」
無抵抗なゴウは電撃をまともに食らった。
体がグインと弓なりにしなる。
「…う…」
ゴウの首が項垂れる。
「…て…め…らぁ…ッ!!」
荒い息をしながらゴウが言葉を発する。
「あなたには私の言うことを聞く操り人形となってもらいます。あなた方の絆をズタズタにするためにね。そのために私はレツを召喚しました」
ロンがチラリとレツを見る。
「そう言うことだからさ、兄さん」
レツが再びゴウに近付いた。
その時だった。
「うおおおおおっっっっっ!!!!」
ゴウが突然、叫び声をあげた。
叫び声というよりも雄叫びに近かった。
「うわあああっっっ!!」
レツがゴウの闘気の爆発によって吹き飛ばされる。
「何ッ!?」
ロンが驚いて金のマントでその闘気を防ぐ。
「冗談じゃねぇ…ッ!!」
ゴウの身の回りに紫色のオーラが見える。
「オレ達の絆をズタズタにするだと?わけ分かんねぇこと言ってんじゃねぇよッ!!」
「…兄さん?」
レツが呆然とゴウを見る。
「…」
ロンは静かに、でも口元に僅かな笑みを浮かべてゴウを見ていた。
「こんな鎖、とっとと解いておさらばだッ!!」
その瞬間、ゴウの闘志が最大限に膨らんだ。
「紫激気ッ、開放ッ!!」
その途端、紫色のオーラがゴウを包み、眩しく輝き出した。
「うわああああっっっっ!!」
レツがその眩しさに目を背ける。
「…フフフ…。…愚かな…!」
ロンが呟いたその時だった。
「うぐっ!?ぐああああああっっっっっっっ!!!!」
今度はゴウの悲鳴が洞窟内に響き渡った。
「なッ、何だッ!?…ちッ、…力が…ッ…、…吸い取られていく…ッ!?」
ゴウから発せられる紫色のオーラが、ゴウを拘束している手足の鎖に伝導し、それが地面や天井に吸い取られていっているのだ。
「なッ、何故だぁ…ッ!!」
手足がガクガクと震え出し、やがてゴウの体から紫色のオーラが消えた。
「アーッハッハッハッハ…ッ!!どうやら全ての激気を使い果たしたようですね、ゴウ!」
ロンが大笑いする。
その傍らで呆然と事の成り行きを見守っているレツ。
「…はぁ…はぁ…ッ!!」
首を項垂れ、荒い息をするゴウ。
「あなたがそうやって激気を開放するだろうと言うことは最初から分かっていましたよ。だから私はあなたを拘束した時、特殊な細工をその鎖に施しておいたのです。あなたが激気を発した時、その鎖が反応して全てを吸い取るようにね!」
「もう諦めた方がいいんじゃないの、兄さん?」
レツが近付いて行って、ゴウの顔を見上げる。
「…だ…だ…」
「え?」
「…オレは、…まだ…負け…ねぇ…!!」
そう呟くとゴウは、腕に繋がれた鎖をグイッと自分の胸の方へ向けて引っ張り始めた。
「うぅうおおおおっっっっ!!!!」
「…愚かな…!」
ロンが小さく溜め息を吐いた。
「いつまでもしつけぇんだよッ!!」
苛立ったレツが右足を振り上げた。
ドゴォッ!!
それは真一文字にゴウの腹を蹴り上げた。
「…!!」
一瞬、ゴウの体がグインと弓なりになった。
「…あ…あ…!!」
ブルブルとゴウの体が震え、暫くするとガクリとなり、ピクリとも動かなくなった。
「…ゼ…ェ…ゼェ…!!」
ヒューヒューと小さな音も聞こえる。
「ヘヘッ!ちょっと強すぎたかな?」
レツがニヤニヤとしてゴウを見る。
「兄さんが悪いんだよ?いつまでも足掻くから…」
そう言うとレツは再び身動きの取れないゴウに抱き付いた。
「…」
ゴウは抵抗できずにグッタリしたままだ。
「これから兄さんを気持ち良くしてあげるね!」
レツのしなやかな指がゴウのメットに伸びてきた。