引き裂かれた絆 第2話


その頃、ゴウは一人、放浪の旅に出ていた。

「…よっと!」

キラキラと水が輝く川原にどっかりと腰を下ろす。

「…あっち〜…」

滴り落ちる汗を手でぬぐう。
だが川辺の涼しい風が心地良い。

「…ふぅ…!」

大きく深呼吸。
そして周りをぐるりと見回した。
川辺では水しぶきを上げてはしゃぐ男の子が2人。

「…フッ…!」

何だかその光景が懐かしく、ゴウはふと微笑む。

『兄ちゃあん!』

幼い頃のレツとの思い出が蘇る。

「…あんなに優しくて、泣き虫だったやつがなぁ…」

 

「どうしても行っちゃうの、兄さん?」

あの日――。
ゴウが放浪の旅に出ると言ったあの日。
旅立とうとしたゴウを追いかけてレツがやってきた。

「…ああ」

振り向いたゴウは、レツに一言だけ言った。

「この方が、オレの性に合ってるからな」

その時のレツの目が忘れられない。
何だか、寂しそうな、悲しそうな、そんな目をしていた。
前にも一度見たことがある。

『どうしても行っちゃうの、兄ちゃん?』

あの時のレツは泣いていた。
激獣拳を裏切った理央を倒そうと、自分だけの旅に出る直前のゴウに小さいレツが言った。

「大丈夫だ、レツ。お前なら、きっと大丈夫だ」

ゴウはそう言ってレツを励ました。

 

「…レツ…」

目の前ではしゃぐ男の子2人を見て、ゴウは呟いた。
自分は禁断の激気技「獣獣全身変」を使い、狼男になり時が止まってしまった。
だがレツは真っ直ぐに育ち、尊敬して止まない自分の後を継いで獣拳使いになった。
そして十数年の月日を経て、自分はゲキバイオレットとして、弟はゲキブルーとして一緒に戦った。
ゴウにとって、失った十数年が重たく感じられる。

「今頃、お前はどうしてるんだ…?」

その時だった。

「…う…うぅ…」

どこからか、呻き声が聞こえる。

(…この声…!?)

ゴウの心臓がどきどきと早鐘を打つ。
突然、立ち上がると、ゴウは辺りをきょろきょろと見回した。

「…どこだ?」

冷や汗が額から伝う。
幻聴なんかじゃない。
確かに聞こえた!

(!?)

遠く目を凝らし、ゴウは体を凍り付かせた。
そこには何度も見慣れたものが。
青い袖。
黒い皮手袋。
その先から伸びるしなやかな指。

(!!)

次の瞬間、ゴウは飛び出していた。

「…あ、…あぁ…!!」

一瞬、目を疑った。
そこには、ゴウの弟、レツがいたのだ。

「…レツ…?」

とは言っても信じられなかった。
レツはスクラッチ社で子供達に獣拳を教えているはず。
だがそこには確かにレツらしい男がいた。

「…う…、…うぅ…!!」

うつ伏せになっているので良く分からない。
ゴウは思い切ってその男を起こしてみた。
その瞬間、息を飲んだ。

「…レ…ツ…!?」

間違いない。
そこには自分の弟である深見レツが確かにいた。

「レツッ!?おい、レツッ!?」

抱きかかえて揺さぶる。
その弟の体は冷え切っていた。

「レツッ、しっかりしろッ!!レツゥッ!!」

頭が半分混乱していた。
レツがここにいるはずがないと信じようとしない自分と、レツは確かにここにいて体を冷やし、自分が抱いていないとどこかへ行ってしまうとパニックになっている自分。
普段は冷静なゴウが完全に自分を見失っていた。
やがて。

「…ん…」

レツの指がピクリと動き、顔を歪ませた。

「レツッ!!レツッ!!」

ゴウが何度もレツを呼ぶ。

「…」

ゆっくりとレツのまぶたが開く。

「…兄…さん…?」

「レツ…。…どうして、…お前がここに?」

その時だった。
レツがいきなりがばっと起き上がったかと思うと、ゴウに抱き付いたのだ。

「!?」

一瞬のことに呆然となるゴウ。

「…さん…。…兄さん…ッ!!」

レツが震えていた。

「どうしたんだ、レツ?寒いのか?」

冷静に尋ねようとしてそんなことしか聞けない自分にちょっとだけ腹が立った。

「兄さんッ!!ゴウ兄さぁんッ!!」

徐々にレツの腕に力が入ってくる。

「おいッ、レツッ!!」

力ではレツよりも上だ。
ゴウは思い切ってレツの腕を振り解く。

「どうしたんだよ、レツッ!?落ち着けッ!!」

するとレツは、涙でぐしゃぐしゃの顔で、

「…やっと会えた…」

と言った。

「え?」

「兄さんを探してここまで来たんだ」

(…オレを…探して…?)

どうも理解出来ない。
旅に出る時、レツは笑って見送ってくれた。

『頑張って、兄さん!僕もスクラッチ社で、子供達に獣拳を教えるよ!』

そう言っていたはずなのに…。
その時だった。
レツがゴウの両手を掴んだ。

(?)

レツが微笑んでいる。

「帰ろうよ、兄さん」

「え?」

一瞬、耳を疑った。

「みんながゴウ兄さんを待ってるんだ。ジャンも帰ってきたよ。ランもケンも、兄さんを待ってるよ」

「何言って…!?」

その時、レツが全体重をかけてゴウに伸しかかってきた。

「うわっ!?」

バランスを崩してゴウが倒れる。
折り重なるようにレツが上に伸しかかる。

「レツッ!?」

「…あったかい…」

レツがゴウにしっかりと抱き付いている。

「僕、兄さんが大好きなんだよ…」

その時、レツの目がギラリと輝いた。

「兄さんに犯されたいくらいに、ね!」

次の瞬間、レツが吹き飛んでいた。

「…お前、レツじゃないな?」

瞬間的にファイティングポーズを取るゴウ。

「…フ、フフフ…!」

俄かにレツが笑い出した。

「…あ〜あ、バレちゃった。バカだねぇ、おとなしく騙されてりゃ、気持ち良いこと、たぁっくさんしてあげたのに…!!」

と、その時だった。

バリバリバリバリ…ッ!!!!

衝撃波がゴウを捉え、激しい電流がゴウの体中に流れた。

「ぐわああああっっっっ!!!!」

レツに気をとられ、突然のことに防御することも出来ず、まともに電撃を浴びたゴウ。

「…ぐ…うぅ…!!」

そのままガクリと膝をつく。

「残念でしたね、レツ」

レツの背後からスゥッと現れた者を見て、ゴウは言葉を失った。

「…お…まえ…は…!?」

忘れるはずがない。
レツが、ジャンが、ランが最後に「獣拳奥義慟哭丸」で封印したはずのロンがそこにいたのだ。

「あなたの大好きな弟が封印したのに、とでも言いたいのですか?…ククク、愚かな…!!」

馬鹿にしたように笑うロン。

「おっと。もちろん、ここにいるのもレツであって、レツでありません」

ゴウの脳裏に蘇る記憶。

「…ま、…まさ…か…!?」

朦朧とする意識で目の前で笑うレツを見るゴウ。

「サンヨの双幻士のシユウとでも言いたいのですか?それも外れですね」

するとロンはゴウのもとへ行き、乱暴にゴウの髪の毛を掴んで顔を向き合わせた。

「私の能力をもってすれば、たやすいことなのですよ。…そして」

ロンの目がギラリと輝いた。

バリバリバリバリ…!!!!

次の瞬間、高圧電流が再びゴウの体を蝕んだ。

「ぐわあああああああああああッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

目をカッと見開き、体をブルブルと震わせるゴウ。
そしてそのまま地面に倒れ伏した。

「…フフフ…」

ロンが立ち上がった。

「…さぁ、これからがお楽しみですよ…」

レツがやってきて、気絶しているゴウを抱えた。

「レツ、お前にも楽しみを分けてあげましょう」

ロンの言葉に、レツがニヤリと頷いた。


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