課外授業 第30話


(…参ったな…)

シャワーを浴びながら、オレは今後のことをぼんやりと考えていた。
弟の魁を犯しているところを、姉である麗ネェに見られてしまったのだ。
しかも麗ネェは趣味がボーイズラブというちょっと変わり者。
オレ達が、麗ネェのお気に入りのストーリーを実演しないと、芳ネェやアニキにばらすと言う。

(…それよりも…)

魁を犯しながら、オレの心の中である感情が芽生えていた。
幼い頃からオレにずっとべったりで、いつも一緒にいた2つ年下の弟。
未だに幼さが残り、あどけない瞳でオレを見つめる魁にかわいさを感じていた。

(…魁を…、…守りたい…)

だがオレの性格上、そんなことを素直に表に出すことは出来ない。
魁はオレのことをどう思ってるのだろう…。
シャワーの蛇口を止め、浴室から出た時だった。

「…チィ兄ィ…」

目の前に魁が立っていた。

「…何だよ…?」

心とは裏腹に、オレの表情は相変わらずぶっきらぼうになってしまっている。

「…本当に、…やるの…?」

魁は相変わらず不安そうにオレを見つめている。
オレはちょっとため息を吐いた。

「往生際が悪リィなぁ…」

オレはそう言うとさっさと着替えを済ませた。

「麗ネェは一度壊れると収拾がつかないってこと、お前も知ってるだろう?」

「でッ、でもッ!!」

何か言いかけた魁をオレはギュッと抱き締めた。

「…チィ…、…兄ィ…?」

きょとんとしている魁。

「…ごめんな…」

「…え?」

魁が聞き返すのも分かる。オレも信じられないくらい、口が勝手に動いていた。
オレの感情がオレ自身を支配しようとしていた。

「…オレ…、…オレ…」

オレが言いかけた時だった。

「ちょぉっとぉッ、翼ッ!!魁ッ!!」

応接室で姉の麗ネェが大声で呼んでいる。

「…行くぞ…」

オレはそう言うと魁の腕を掴んだ。

 

「遅いってばッ!!2人ともッ!!」

応接室にやって来ると麗ネェが腕組みをして膨れっ面をしていた。
しかも片手にはきちんとハンディカムを持っていたし。

「…チ、チィ兄ィ…」

オレの後ろに魁が隠れる。

「安心しろ、魁。お前は、オレが守る」

無意識に口から飛び出した。

「…え?」

魁と麗ネェが同時に声をあげた。

「麗ネェ。1つお願いがある」

多分、オレの顔は真っ赤になっていたに違いない。
凄く火照っているのが分かっていた。

「麗ネェは消えてくれ」

「…はい!?」

麗ネェはあからさまに不機嫌な顔をした。

「麗ネェが目の前にいたらストーリーに集中出来ねぇだろ?この場にハンディカムだけを残して立ち去るか、魔法で消えるか、どっちかにしてくれ」

「ちょ、ちょっと、チィ兄ィ」

魁がハラハラしながらオレ達を見つめている。

「魁もその方がいいだろ?それとも、麗ネェに恥ずかしい姿を見られてぇのか?」

「…オレは、…何も…」

「…分かった…」

麗ネェが声を発した。

「その代わり、きちんと演技してくれるんでしょうね?」

「ああ。最高の演技をしてやるよ。な、魁」

オレはそう言うと背後にいた魁の肩に腕を回した。

「…チィ…兄ィ…」

魁は不思議そうにオレを見る。

「…分かったわ…」

そう言うと麗ネェはハンディカムを抱きかかえ、

「私は姿を消しているから。マジュナ・マジュナ!!」

と唱えた。
次の瞬間、視界から麗ネェとハンディカムが消えた。

「声とかもあげるんじゃねぇぞ、麗ネェ!」

オレはそう言ったが、既に麗ネェの気配が消えた後だった。

「…よし。やるぞ、魁」

そう言うとオレは魁の両肩をギュッと掴んだ。

「…チィ兄ィ…」

明らかに戸惑っている魁が声をあげる。

(…こンの、鈍感!)

ちょっと腹立たしさを覚えたが、

「…魁だけは、…何があっても、…オレが守るから」

オレはそう言うと魁の唇にそっとキスをした。

「…ん…」

魁が少しだけ目を大きくする。
だが嫌がる素振りは全くない。
それよりもオレの両腕を掴んで、ゆっくりと目を閉じたのだ。
暫くしてオレは魁と向き合った。

「…何か、…今日のチィ兄ィ、チィ兄ィじゃないみたいだ…」

そう言う魁の唇にオレは再びキスをした。
そして静かに微笑んだ。

「さぁ、始めるぞ!魁、お前は部屋から出るんだ」

「…あ、う、うん…」

魁はそう言うと応接室を出て行った。

「…よし」

オレはそう言って大きく深呼吸し、所定の位置についた。
遠くでウィィィンという小さな音が聞こえた。
麗ネェがハンディカムの録画ボタンを押したのだった。


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