課外授業 第29話
「…う、…麗…ネェ…」
目の前に姉であるマジブルー・麗ネェが立っている。
「…アンタ達…」
普段からクリクリしている目を、今にも眼球が零れ落ちるんじゃないかというほどに見開いている。
それに向き合っているオレと魁の姿は無様なものだった。
オレはマジイエローに魔法変身し、その股間からは自身の情熱をブラブラとさせている。
それは勢いを失い、すっかり落ち着いていた。
一方の魁はもう1人の姉のマジピンク・芳ネェのマジスーツを拝借し、体力を消耗しきってオレの後ろで荒い息をさせ、麗ネェを見上げている。
「…」
「…」
「…」
オレ達3人はただ呆然としてしまっていた。
長い沈黙を破ったのは魁だった。
「…チ、チィ姉ェッ!!」
何とか立ち上がった魁がフラフラと麗ネェのもとへ歩み寄った。
「…魁…?」
それでも呆然と魁を見つめる麗ネェ。
「聞いてくれよォッ、チィ姉ェッ!!チィ兄ィったらオレを散々弄ぶんだぜぇ!?」
そう言うと魁は麗ネェに抱き付いた。
「…ッ!?」
小さな悲鳴が聞こえたと思った次の瞬間、
「うわあああっっっ!!」
と言って魁が麗ネェに突き飛ばされて飛んで来た。
「うわあああっっっ!!」
そして魁はオレに後ろ向きにぶつかり、その弾みでバランスを失ったオレは見事に背後に倒れ込んだ。
しかも魁を体の上に乗せた状態で。
「…痛ってぇ…。…な、何だよッ、チィ兄ィッ!!ちゃんと受け止めてくれよなッ!?」
魁が膨れっ面をしてオレの方を見た。
「るっせぇっ!!つーか、お前こそどこに座ってんだよッ!?」
「え?」
そう言うと魁は自分が座っている場所を確かめ、顔を真っ赤にさせた。
「そこまでしてオレにやられてぇのか?」
オレが意地悪くニヤリとすると、
「うぎゃあああっっっ!!」
と大声で叫んで魁は慌てて飛び退いた。
魁が座っていた場所。
スーツから飛び出したオレの情熱を魁の双丘がすっぽりと包んでいたのだった。
とその時だった。
「いい加減にしなさいッ!!」
甲高い声が耳を劈いた。
「…あわわわ…」
「…う、…麗…ネェ…?」
魁が震える。
オレは恐る恐る姉を呼ぶ。
「…アンタ達って…、…アンタ達って…!!」
俯いて体をブルブルと震わせている麗ネェ。
次の瞬間、麗ネェの口から思いもよらない言葉が飛び出した。
「…アンタ達って、そういう関係だったのねぇッ☆」
「「はぁッ!?」」
「ちょ、ちょっと待ってよッ、チィ姉ェッ!!オレはチィ兄ィに犯されてたんだぞッ!?」
魁が麗ネェのもとへ再び歩み寄ろうとした。
「イヤァァンッ☆禁断の兄弟愛の世界がこんな身近で見られるなんてェッ☆」
麗ネェは目をキラキラさせ、両の頬を両手で覆い、すっかり自分の世界にのめり込んでいる。
「…あの、…チ、チィ姉ェ…?」
魁が呆然として声をかける。
「あっちゃー…」
オレは頭を抱えた。
そうだった。
いつも真面目な麗ネェには1つだけちょっと変わった趣味があった。
それは多分、オレしか知らないはずだが。
麗ネェの趣味=ボーイズラブの世界。
麗ネェの部屋の本棚の奥の方に、隠すようにそういった類の本が置かれているのをオレは知っていた。
更に。
オレと魁とでじゃれ合っている時の麗ネェの視線が凄かった。
目をキラキラさせ、口元にはニタァッと笑みを浮かべ、それは凄い形相だったのだ。
「…あ、…あの…、チィ姉ェ?もしもーし?」
魁がそう言った時だった。
「マジーネ!」
突然、麗ネェが変身解除の呪文を唱えた。
すると魁の体が光り、マジレッドに戻っていた。
「アタシ、感激ィ☆毎月、それ系の本を買わなくてもここで生で見られたじゃないのよォ☆」
すっかり上機嫌な麗ネェ。
つーか、自分の趣味を自分からバラすか、普通?
「だから、そうじゃねぇって!!麗ネェッ!!」
オレは麗ネェの趣味のことも誤魔化そうとして声をかける。
しかし、麗ネェは、
「翼ッ☆お姉ちゃんは温かくアンタ達のことを見守っていてあげるから☆」
とオレの話にも取り合おうとしない。
そして自分の部屋へと戻っていった。
「…チ、チィ兄ィ…」
魁がゆっくりとオレのもとへやってきた。
「どしたの、チィ姉ェ?」
あどけない表情でオレに聞いてくる魁に少し腹が立ったが、
「そういうことだよ!」
とオレは一言言った。
「そういうことって?」
「だから、麗ネェはボーイズラブ、特に禁断の兄弟愛が好きなんだよッ!!」
「まッ、マジッ!?…ってか、それって、オレ達、誤解されてるってこと!?」
「ああッ、もうッ!!」
オレはそう言うと魁の胸倉を掴んだ。
「どうなっても知らねぇッ!!」
オレがそう言った時だった。
「魁ぃ〜ん☆翼ぁ〜ん☆」
ガチャリと扉が開いて、麗ネェが戻ってきた。
手には1冊の本を持っている。
ギクリとして振り向くオレ達。
「アタシさぁ、この作品を2人でやって欲しいなぁなんて思ってんだけどぉ☆」
1冊のコミックを差し出した麗ネェ。
「「うぅわああああっっっっ!!!!」」
本を読んだ瞬間、オレと魁は同時に悲鳴をあげた。
「ななな、何だよッ、これぇッ!!」
魁が思い切り嫌そうな顔をしている。
「こんなん、やってられっかよッ!!」
オレは全身に鳥肌が立ち、半投げの状態でその本を麗ネェに返した。
「あっそ。そういう態度に出るんだ?」
急に麗ネェの表情が硬くなった。
「…麗…ネェ…?」
「じゃ〜あ〜、2人が魔法部屋でイケナイことしてたってこと、お兄ちゃんと芳香ちゃんに言っちゃおうかなぁ?」
「…ッ!?」
予想していた通りのことを麗ネェはさらっと言ってのけた。
「お兄ちゃん、怒るだろうなぁ?芳香ちゃん、そういうの大っ嫌いだからきっとご飯も食べさせてくれないだろうなぁ?」
「…お、脅しかよ、麗ネェ?」
オレが尋ねると麗ネェはニヤリとし、
「じゃあ、アタシの言うことを聞きなさい♪」
と勝ち誇った表情で言った。
「…チ、チィ兄ィ…」
魁が泣きそうな顔をしている。
「言う通りにすれば、芳ネェやアニキには黙っててくれるんだろうなぁ?」
「フフン」
麗ネェが笑って頷く。
何だか今日の麗ネェはナイやメアよりも意地悪いかも。
「…分かった…」
「チッ、チィ兄ィッ!!」
信じられない表情でオレを見る魁。
「なッ、何でオレまで付き合わなきゃならねぇんだよッ!?」
「じゃあ、このことを芳ネェやアニキに知られてもいいのか!?お前の大好きな飯も食えなくなるぞ!?」
そう言うと魁は、
「…うぅ…」
と半べそをかいて目を潤ませる。
「オラッ、体洗ってこいよッ!!」
「…オレは完全に被害者なのにぃ〜」
魁は泣きながら魔法部屋を出ていった。
「さすが翼。物分かりが良いわね?」
麗ネェがニヤニヤしながらオレのもとへやってきた。
「るっせ」
オレはそう言うと麗ネェを見た。
そして一言。
「オレらのことを言おうもんなら、麗ネェのこの趣味のこと、芳ネェやアニキに言うからな!」
「…フッ!」
最初はちょっと驚いていた麗ネェだったが、鼻で軽く笑った。
「取引成立ってわけね?…いいわ。それでいきましょ!」
と言った。
「…」
オレは何も言わず、体を洗うために魔法部屋を後にした。