引き裂かれた絆 第8話


ゴウがロンの狡猾な罠にはまり、その手に堕ちようとしていた頃。
ここ、スクラッチ社でも異変は起こっていた。

「…ッ!!」

レツ。
ゴウの実弟であるゲキブルー・レツが、初めてではないかというほど情緒不安定に陥っていた。

「…兄さん…。…ゴウ…兄さん…!!」

自分探しの旅に出ているはずの実兄であるゲキバイオレット・ゴウのことばかり考えている。
まさか、あのようなことになっているとは知らずに…。

(…会いたいよ、…兄さん…!)

日増しに強くなって行く兄への思い。
今まではそんなことは、微塵も感じたことがなかった。
ゴウが近くにいたと言うこともあるだろう。

「…僕は、…どうしちゃったんだ…?」

レツは、今までに感じたことのない感情に戸惑っていた。

「今までだって、兄さんのことを思っていた時だってあったはず」

なのに。
今までとは違う。
明らかに感情が高ぶっている。

「…ッ!?」

突然、息苦しくなったレツはその場へしゃがみ込んだ。

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」

大きく息をするレツ。

「…な、…何だ…ッ、…この感情は…ッ!?…兄さんのことを、…考えただけで…、…こんなことに、…なるなんて…!!」

ドクンッ!

突然、心臓が高鳴った。

「…ッ!?ああッ!!」

苦しい。
レツは慌ててトイレへと駆け込み、個室に飛び込んだ。
そして急いで鍵をかけた。

「…ッ!?」

やがて動悸が落ち着きを取り戻した時、レツは自身の体の変化に言葉を失った。

「…な…ん…で…?」

レツが驚くのも無理はない。
レツの男子としての象徴が大きく勃起し、ズボンの中で苦しそうにしていたのだ。

「…僕は、…一体…!?」

何か恐ろしいものでも触れるかのように、震える手でそれをゆっくりと包み込んだ。

「んあああッッッ!!!!」

何とも言えない衝撃が体を駆け抜ける。

「…あ…、…あぁ…!?」

レツの大きく勃起したそれは手の中でドクドクと脈動を繰り返す。

「…僕は、…僕は一体、どうなっちゃったんだ…!?」

その時だった。

(!!!!)

そんなレツを一瞬で正常に戻すような、強烈な"気"がレツを包み込んだ。

「…う…そ…だ…!?」

レツの体に冷や汗が流れる。

「…これは、…紫激気…!?」

その"気"は明らかに自分の近くにいることを感じさせた。

「…そ、…そんな…バカな…!?…兄さんは今、…自分探しの旅に出ているはず…!?」

懸命に否定しようとするレツ。
自分が兄のことを強く思いすぎたせいで、幻覚に囚われているのかもしれないとも思った。

(!!!!)

次の瞬間、強烈な"紫激気"がレツを包み込んだ。

「…兄…さん…ッ!!…兄さんッ!!」

弾かれたように、レツは外へと飛び出した。

 

(…兄さん…!?)

建物の外へ飛び出したレツは、周りをグルグルと見渡す。

「…どこだ…?」

完全に冷静さを失っているレツ。
その目は忙しなくきょときょとと動き、握り締めた拳がブルブルと震えている。

「…兄さん、…どこにいるんだよ…!?」

その時だった。
背筋が凍るほどの強烈な"気"を背後に感じた。

(…!?)

まるで金縛りに遭ったように身動きが取れない。
冷や汗だけが溢れてくる。

「…あ、…あぁ…!?」

力を振り絞り、ようやく背後を振り返るレツ。
だがその瞬間、目の前にいた人物に言葉を失い、体の自由も奪われたかのような感覚に陥った。
猫の顔のような紫色のマスク、紫と黒の光沢が妖しく光るスーツ、脛辺りに巻かれた銀色の帯…。

「…兄…さん…?」

そこには、ゲキバイオレットにビーストオンしたゴウが静かに立っていたのだった。


第7話へ戻る    第9話へ進む


メニューに戻る