盲目
疾風流忍者養成学校忍風館にある実験室で、日向おぼろが新しく考え出した実験が行われていた。
「しっかり踏ん張りや?」
おぼろがモニターに移るハリケンレッドに向けてそう言うと、パソコンのキーボードを叩く。
モニターの向こうのレッドの周りに煙が立ち込め、天井から一筋の稲妻が突き抜けた。
「実験終了!気分は?」
レッドが振り返って、
「いい気分だぜ!」
と応える。
「でもこれで本当にスーツの耐久力とか上がるの?」
「当たり前当たり前!前よりすばやく動けるし、何より防御力も格段と上がってる。これであの妖怪軍団と戦っても大丈夫や!」
癖の強い大阪弁でまくし立てるおぼろの後ろ姿を見つめながら、吼太は隣に立っている一鍬に言った。
「次は俺達だけど、大丈夫かな?」
「心配することはない。兄者は痛みもなくすぐに終わったと」
「ならいいんだけど・・・」
ジャカンジャのあとに現れた敵勢力は、街中で大暴れしていた。
ビルを壊し、人をさらい、時には繭に閉じ込めて養分にしたり、やりたい放題である。
ハリケンジャーとゴウライジャーが協力してなんとか押さえ込んでいたのだが、いきなり敵の総大将が現れて大敗北したのである。
スーツはズタズタに引き裂かれ、全員怪我だらけで帰ってきたのだ。
とにかく彼らを何とかしなければ地球がめちゃくちゃになってしまう。
そこでおぼろが考え出した方法でスーツの強化を行っているのだ。
吼太は時折ちらちらと一鍬の横顔を見ては、胸を躍らせた。
敵のエネルギー波に直撃されそうになったとき、一鍬に助けられたのである。
抱きかかえられてふと見上げると、逆光の中影をまとった一鍬の横顔(変身しているからマスク姿だが)が頼もしく見えた。
一鍬はいつもそばにいて俺の事を守ってくれるんだ。
吼太はそんなことを漠然と感じて、日が経つにつれその思いは一種の愛情へと変化していったのである。
「ほらほら!次はあんた達!」
おぼろにせかされて、二人は変身すると実験室に入った。
おぼろがキーボードを操作すると、煙に包まれて稲妻が二人の脳天を直撃した。
おぼろはソファにちょこんと腰掛けて、吼太と一鍬の冷たい視線に耐えていた。
「どうしてくれるんですか!」
変身したままの吼太が怒鳴った。
「すまん、まさか誤作動するなんて…」
「元に戻れなくなったんですよ俺達!」
向かいに座って、吼太と一鍬が変身した姿のままで腕を組んでいる。
「元に戻すならそう…、鋏で切るとか」
「体に吸い付いてるから下手に切ったら怪我しますよ」
一鍬が落ち着いた口調で言う。
無限斎がお茶をすすりながら、
「まあその、何とかなるまで二人は外出禁止だな」
と呟くと、吼太はがっくりと肩を落とした。
館内の個室に戻った吼太は、乱暴にドアを閉めて部屋の電気をつけた。
四畳ほどの部屋にはシングルベッドと勉強机、そして箪笥が置かれている。
そして壁紙が見えないほど、一鍬の写真が沢山貼り付けられていた。
頼もしさが吼太の中で愛情へと変わってからずっとカメラで隠し撮りしては部屋に貼り付けているのだ。
仕事が終わってから食事に誘った時に隠し撮りした写真、お風呂にトイレとパパラッチ顔負けである。
吼太はベッドに横になると、バイザー越しに一鍬の写真を眺めた。
そしてあれこれ想像を膨らませると、一緒になって股間まで膨らんでくる。
気持ちを抑えるのも限界に近づいていた。
一鍬の誕生日に山のようなプレゼントを買い込んだものの、気恥ずかしくて枕元に黙っておくぐらいしかできず、挙句そのプレゼントを兄からだと勘違いされたり。
そんな些細な行き違いでも吼太には耐えられなかった。
食事に誘えば邪魔者がぞろぞろついてきたり、裸見たさに銭湯へ誘えば妖怪軍団が現れる。
「ツイてないな、俺…」
スーツの上から股間を弄繰り回して、吼太はため息をついた。
そしてオナニーに取り掛かろうとした瞬間、
「入っていいか?」
と、一鍬がドアの向こうから声をかけてきたのである。
吼太は飛び起きて、
「待って!か、片付ける!」
と叫ぶと大慌てで写真を引っぺがし始めた。
たっぷり五分もかかってようやくドアを開けると、一鍬はつまらなそうに壁にもたれていた。
「五分もかかるほど部屋を汚したのか?」
「ま、まあな!ほら、入れよ!」
個室にあげると、吼太はそわそわしながら座布団を引っ張り出して、お茶を注いだ湯飲みを持ってきて出したりと、おおはしゃぎである。
「なんか、吼太の事だから色々飾りつけがありそうだと思ってたんだが、そうでもないな」
「そ、そう?えっと、何か飾る?」
「いや、別に…」
「そう…」
(まずいなあ…、黙り込んじゃった…)
ちゃぶ台を挟んで、変身した二人が顔をつき合わせている姿は滑稽である。
「あのさ、何の用事?」
「ん?ああ、どうしてるかと思って。ほら、お互いこんな格好だろ?」
そう言って、一鍬はマスクのバイザーと口あてを格納すると、お茶をすすった。
「そうだな!トイレにもいけないもんな!」
「うん。困った」
「それだけ?」
「他になくちゃいけないのか?」
「ううん、大丈夫」
吼太は自分でも何を言っているのかよく分からなくなってきた。
一鍬はお茶を飲み干して立ち上がると、部屋の中を歩き始めた。
そして隠した写真が詰まっている机のそばへ行ったのである。
「あ、だめ!」
「え?」
「引き出しはだめ!」
「いや、俺は介護師の本を・・・」
一鍬が首をかしげて本に手を伸ばすと、今度はその足元に隠し忘れた写真を見つけて、吼太は心臓が止まりそうになった。
あわててそれを拾い上げて座布団の下に隠すと、また一鍬が首をかしげる。
「お前どうかしたのか?」
「別に?変?」
「ああ、少し」
一鍬は本をしまうと、吼太のマスクに手を触れた。
吼太はドキッとして、呼吸が荒くなる。
「ちょっと顔見せてみろ」
吼太は頷いて、バイザーと口あてを格納する。
頬を真っ赤に染めて、潤んだ目を一鍬に向けている。
「風邪でもひいたのか? 顔が赤いぞ」
「大丈夫だよ!」
「でも顔が・・・」
「大丈夫だって! 俺、嬉しいだけだよ・・・」
吼太はごくりとつばを飲み込んで、
「一鍬が心配してくれるから」
と呟いた。
きょとんとしている一鍬の肩を掴み、
「俺もお前が心配なんだよ!俺、一鍬が大好きだから」
言っちゃった!
(殴られるかな…)
胸につかえていたものを吐き出した気持ちよさと同時に不安の波が押し寄せる。
恐る恐る一鍬を見ると、にっこりと笑っていた。
「俺も大好きだよ」
その言葉を理解するのにたっぷり十秒もかかった。
「え?」
「当たり前じゃないか」
そう言うと、一鍬は吼太をベッドへ連れて行った。
吼太の心臓がドキドキと大きく鳴る。
(まさかいきなり…)
吼太があれこれ妄想をたくましくしていると、一鍬は背中をぽんと押して、吼太をベッドに横たわらせた。
一鍬の顔が吼太に近づく。
そして、
「風邪でもひいて頭がボーっとしてるんだろ、ゆっくり寝るんだ」
と言って立ち上がった。
期待はずれである。
吼太は一鍬の手を掴んで無理やり引っ張った。
「行くなよ!」
「おい、一人で寝るのが怖いのか?」
「そうじゃなくて!」
吼太が一鍬をベッドに引っ張り込むと、馬乗りになった。
「吼太?」
「俺の事、大好きだって言ってくれたろ!? じゃあなんで一人にするんだよ!」
一鍬は吼太が何を言っているのかまったく分からなかった。
大好きとは言ったが、それは友達として、である。
吼太は一鍬の胸をなでると、そこに頭を乗せたのである。
「お、おい・・・」
わけが分からなくて、一鍬が吼太をどかそうとしたとき、太ももに固いものが当たった。
「吼太・・・」
「俺、大好きなんだよ・・・」
吼太の体が下へ行き、一鍬の股間をスーツの上から舌で舐める。
「うわ!」
背筋に寒いものが走って、一鍬は思わず身震いした。
吼太がバイザーと口あてを戻して、一鍬の肉棒をスーツの上から力いっぱい握り締める。
鈍い痛みが走って、一鍬は顔をしかめた。
「何するんだ!」
「暴れると握りつぶすよ?」
と吼太が感情のない声で呟く。
「マスクを元に戻して」
空恐ろしくなった一鍬は言われたとおりにバイザーと口あてを戻す。
すると吼太がマスクを優しくなでた。
「これだよ、俺を助けてくれた一鍬だ・・・。俺お前のことが忘れられないんだ」
吼太が一鍬の肉棒をゆるゆるとしごき始めた。
「うああ・・・よせ・・・」
自分以外の誰かに触られるのはこれがはじめてである。
味わったことのない奇妙な感触にとらわれ、嫌だと分かっていても体が素直に反応してしまう。
「大好きだよ一鍬」
吼太の手が股間を撫で回す。
一鍬はその隙を突いて、枕で吼太の頭を引っぱたいた。
「うわ!」
吼太が床に転げ落ちると、一鍬は急いで部屋を出ようと立ち上がる。
そしてドアノブに手が届く瞬間、吼太はハヤテ丸を一鍬の首筋に押し当てた。
「なんで逃げるんだよ。俺は正直にお前に気持ちを打ち明けたのに。俺のことが好きなら受け入れてくれよ」
一鍬を壁にぶつけ、その喉元にハヤテ丸を当てる。
「違う、そういう意味の好きじゃないんだ」
「照れてるのか? 案外かわいいとこあるじゃん」
「違うって!」
「恥ずかしがらなくてもいい。さあ、ベッドに戻れ!早く!」
一鍬は後ずさりしながら、再びベッドに横たわった。
すぐに吼太が馬乗りになって、再び一鍬の肉棒を握る。
「ほら、俺のを見てよ」
吼太は自分の股間を指差した。スーツの中で勃起した肉棒は、先端からとめどなく蜜をたらし、ぐっしょりと濡れている。
吼太の肉棒の形、太い血管まで浮き上がるほどだ。
なんとか適当にやり過ごさないと、なにされるか・・・。
一鍬はとにかく吼太に逆らわないと決めた。
「一鍬が兄貴にもらったって喜んでた時計、あれ俺がプレゼントしたんだよ」
(そうだったのか…)
「あ、ああ、照れくさくて。ありがとう」
「飯食いに行ったとき、本当は一鍬と二人きりがよかったんだ」
(ちっともよくない!)
「俺もそう思ってた。邪魔だよなあいつら…」
「一緒に、ずっと一緒にいたいんだ、一鍬と。お前の写真だって部屋いっぱいに飾ってたんだ」
「そうか、嬉しいよ」
「だから…」
クチュ…。クチャ…
「ふああ! そ、ま、待て!」
「何?」
「落ち着こう、この格好でそれはまずい」
「嫌だ。今帰したらもう二度と来てくれなくなる」
吼太は一鍬の右手を握り、自分の股間に触らせた。
「うあ…」
一鍬の手に自分の肉棒を握らせると、ニチャニチャと湿った音がする。
最初はゆっくりと動かしていた手を、徐々に速めた。
クチュッ…ジュブ…
「はあ!ああ!」
吼太が声をあげ、息が荒くなり、一鍬の手をもっと速く動かした。
「うああ!いうあ!はうっはうぅっ!あっやべ…」
股間がツーンとしびれたかと思うと、精液が一気に吹き出した。
ビュッ!ビュルッ!ビュクビュクビュクッ!…ビュク…ピュ…
「はあ…」
まるで練乳のように濃い精液は、吼太のスーツの股間から染み出して、一鍬のグローブを白く染める。
射精の瞬間を見た一鍬は、思わず息を呑んだ。
「嬉しい…」
吼太はうっとりした声で言うと、手を一鍬の股間へ持っていく。
そして一鍬は触られてはじめて、自分まで勃起していることに気づいたのだ。
「俺がイくの見て感じてるんだ」
一鍬は言い返せなかった。
それ以外に勃起する原因が見つからない。
吼太が一鍬の胸に頭を預けると、ゆっくりと一鍬の肉棒を愛撫し始めた。
チュプ…。チュクチュクチュクッ!
「うお!あうう!あんっ…くあっ…」
スーツの中の肉棒を引っ張られ、先走りが黒いスーツにうっすらとしみを広げる。
吼太のしごく手が速くなると、そのしみはどんどん広がっていった。
そしてじんわりと染み入るような、深い快感に全身を包まれ、上半身から力が抜けていく。
抜けた力はまるで全部下半身に集中しているように、足に力が入った。
そして知らず知らずのうちに腰が浮く。
「一鍬、出してよ…、もうすぐでしょ?」
吼太の手の中で肉棒がビクビク震えて暴れる。
亀頭の辺りがジンジン痛み出して、感覚がなくなりかけた瞬間だった。
吼太が手を放したのである。
「がああ!」
直前まで高まっていた射精感だけが残って、肝心の精液は潮が引くように戻っていく。
「うぅ…あぁ…」
一鍬は腰を突き上げ、戻っていく精液を吐き出そうと何度も腰を振った。
「吼太…」
「いいだろ?簡単にはイカせないから」
吼太はそう言って手を放すと、横になったまま一鍬を見つめた。
そして、
「もう俺が手を出さなくてもやれるよね?」
と、吼太は一鍬の手を掴み、自分の股間へあてがった。
一鍬も体を横にして、吼太の肉棒をギュッと握り締める。
吼太の体がビクンと跳ねた。
グジュ…。グチュグチュグチュグチュグチュッ!
「あああああああっ!」
射精して敏感になっている亀頭をすりあげられて、吼太があられもない声を出す。
またすぐに波が押し寄せてきた。
一鍬の手の中で肉棒が暴れまわり、絶頂が近づく。
そして、一鍬も手を放した。
「うあああ!?」
吼太が悲鳴をあげて、体をくねらせる。
「お返しだ」
「一鍬…」
「凄いよ、こんなの初めてだよ…」
それを聞いた吼太は気をよくして、また一鍬のを弄り始めた。
ニッチャニッチャ…、チュプ、クチュ…。クチュッ!
「うわああっ!ああ!やべ、ああっ!うわあああっ!」
ズビュッ!ズビュビュッ!ビュルルッ!ビューッ!ビュル…ドププ…
あんまりオナニーなどしない一鍬は、たまっていた精液を大量に噴き出させ、黒いスーツの上にねっとりとした精液が浮かび上がった。
股間から全身に心地よい虚脱感が広がって、一瞬気が遠くなった。
「一鍬、気持ちよかった?」
「うん、凄く」
「じゃあ…」
吼太が片足を開いて股間を見せ付けると、一鍬の中で何かが崩れた。
そして、吼太を抱きしめると肉棒を千切れそうなほど強く握り、激しく攻め立てたのである。
ジュッポッ!ジュクジュクジュクッ!ギュチュグチュグチュグチュッ!
「うわああ!イク!イクッ!イクッ!わああああああッ!」
ドビチュッ!ビチュッ!ビュッ…ビューッ…ジュワ…
吼太は体の力が抜けて、壁にもたれかかった。
それを頼りにゆっくりと体を起こしてベッドに座り、自分の股間へ目を落とす。
二発も大量に射精したおかげでスーツの股間は水でもかぶったみたいに濡れ、臭いが漂ってきた。
それから一鍬の股間を見ると、自分と同じように濡れ、スーツの中で肉棒が踊っている。
「吼太!」
「え?」
一鍬が吼太の首を掴み、ベッドに押し倒した。
「ちょっと、何…」
一鍬が吼太の体を押さえつけ、股間と股間をすり合わせて腰を降り始める。
「吼太!吼太!」
一鍬は何度も吼太の名前を叫び続けた…。
「よかったな、元に戻って!」
翌日。
なんとかスーツを脱ぐことができたものの、吼太は元気がなかった。
「うん…」
隣では同じく元に戻った一鍬が、ニヤニヤとしまらない顔をして、吼太の肩を抱く。
(違う、こんなんじゃないよ…。何を見てたんだろう俺は…)
あの夜、一鍬は狂ったように吼太の名前を叫び続け、何発も射精したあとベッドから転げ落ちて気絶してしまったのである。
もちろん吼太も二回くらいは射精したのだが、気持ちよくなかった。
一鍬に抱いていた気持ちが、すっかり冷めてしまったのである。
頼りがいがあって、いつも守ってくれる頼もしい一鍬。
そこに吼太は憧れ、惚れていたのだ。
気の迷いとはいえ、その一鍬を変えてしまった原因は、自分にもある。
吼太は一鍬に失望して、同時に自分にも失望していたのだ。
肩を抱かれて廊下を歩いていくと、吼太の部屋を通り過ぎた。
「あれ?」
「俺の部屋だよ」
そう言うと、一鍬は自分の部屋の鍵を開けて、吼太を入れる。
恐ろしいくらいきちんと整理された部屋に通され、戸惑って振り返ると、一鍬は変身していた。
「ほら、ぐずぐずしてないで吼太も」
「うん…」
吼太も変身すると、一鍬にベッドに押し倒された。
「ずっと一緒にいるんだよな、俺達」
「うん…」
「死ぬまで、ずっと…」
一鍬が吼太に飛び掛かった。
(了)